ikoriのブログ

あふれてしまいそうなこと わすれてしまいそうなこと おぼえていたいこと  かんじたこと 日常の記録

片腕(R40指定)

川端康成
「片腕」


大きな坂を
駆け上がるるように読み進む
心音がどんどん早くなっていく
情景が目に広がる
花のしべの香りまでも
ベッドのシーツの肌触りまでも
香り 光 時間 音 温度
すべてが詳細に描きこまれ
その場に立たずにはいられない

小さな部屋
主人公の男と

すれちがった赤い服
借りた娘の片腕。
それだけの
それだけなのに

主人公の心音と一緒に
クライマックスをかけのぼる
男は震えている
私はもう息苦しい…
口を開けて肩で息をする
その時 急に…
幕が切り落とされた
閉じた
闇だ…終わった。


本を閉じても動悸はおさまらない


その胸をそっと自身の左手の平で
なだめるようにおさえつける

なんていう結末
なんて
結末なの………

 

 

 

貴方のその腕の造形を
注意深く見たことがあったかしら
軽くおいた指先がどんな癖で
まがるの
どこに古い傷があって
爪はどんな形や色をしているの
どんな皺が寄って
どこかにほくろ あるのかしら
わたしはそれに
触れて撫でたことがあったかしら
その手のひらはどんな香りがして…
もしもその指先を口に含んだなら
どんな味がするのかしら…

 

貴方の片腕を手に入れたなら
わたしはどうするのかしら……
片腕を貸した片腕のない
貴方は何を想うのかしら


すごい世界観……だった

本屋さんの棚に並んだこの本を
何人の人が
不思議な色香を放っていることに
気づかず今日も通り過ぎるのだろう……
ひっそりと
倒錯の世界は
あなたのとなりに
口を開けているのかもしれない