あれは あんずの木なんだよ
まだ花の着く前の
梅のような桜のような桃のような
黒い枝だけの木を遠くに
窓ガラス越しに
あなたとみた
壊れてしまったお庭の
大切な想い出
あんずの花の季節に
あなたのかけてくれた言葉を
思い出した
並んで立ち
手を腰の後ろへ軽く組んだ
あなたは
すっ とたち
私の方は見ないで窓の外を
目を細めながらみつめて
曇った冬の光がまぶしいのか
何かを思い出しているのか
私にはそれはわからなかった
そして こういった
あれはあんずの木なんだよ
私があんずの木より
あなたの横顔をみていたこと
あなたはきっと
気がつかなかったろう
あのお庭が
あのあたたかな日の差す
窓ガラスの部屋が
懐かしく…………
あなたのあの声も
素敵だった